緑内障は、目と脳を繋いでいる 網膜神経節細胞 が障害され、その部位に一致した 視野 が霞んでくる眼疾患です。神経細胞が死んでしまうことで視野が欠損するので、一度失われた視野は治療をしても元には戻りません。そのため、自覚症状がない早期に発見し、早期に適切な診断に基づいて適切な治療をすることが重要です。緑内障の視野障害は通常年数をかけてゆっくり進行しますが、その中でも進行スピードには個人差があります。ご自身の状態を眼科の先生と一緒にしっかり把握し、治療を継続することが大切です。
緑内障の診断には、 隅角 検査が重要です。目の中を栄養するために湧き出る房水は、水晶体や角膜も養い、隅角から目の外に流れ出ます。隅角は通常広いのですが、生まれつき隅角が狭くなっている方もいます。隅角が狭いと、老化や白内障により水晶体が厚くなってきた時に、更に隅角が狭くなり、眼内に房水がたまり、 急性緑内障発作 を起こすことがあります。急性緑内障発作は怖い疾患で、一晩放置すると一生の失明になる人も多いのが現状です。具体的には、急激に眼圧が上昇し、頭痛や吐き気、目の痛み、充血、急激な視力低下を引き起こします。夕方から夜10時頃の間に発症することが多いようです。もともと目が小さめな方に多いので、生来目が良いと自覚している方(遠視)に多く、瞳が広がるような作用を持つ薬(睡眠薬など)を内服していると発症しやすくなります。発作の症状がみられたら、すぐに眼科医のいる救急外来を受診すれば、縮瞳点眼薬や眼圧下降点滴により発作を解除し、近日中に水晶体の除去やレーザーにより虹彩に孔をあける治療方法が奏功します。早く受診することが大切です。
日本人で発症頻度の高い緑内障は、隅角が広いタイプの開放隅角緑内障ですが、その中でも特に正常眼圧 緑内障が最も多くみられます。欧米では高眼圧の緑内障が大半であることから、日本を含めたアジア圏の眼圧が正常な患者さんには、欧米での研究成果を必ずしも適用できないと言えます。眼圧の正常値は、健常者を対象とした調査に基づいて統計的に求められた値であり、10~21mmHgとされています。この正常範囲の眼圧であるにもかかわらず、眼圧が高い緑内障と同じような症状をきたすのが正常眼圧緑内障です。眼圧は1日の間にも変動があり、夜間に上昇する方が多いことも知られております。また、角膜の厚みや強度によっても眼圧測定時に誤差が生じ、更に体位によっても変化するため、日中クリニックで一回測定した眼圧の値が正常範囲だからといって、眼圧がその患者さんの視神経 にダメージを与えていないとは言えません。
緑内障の診断は、 視神経乳頭 に緑内障に特徴的なの変化を認め、視神経乳頭辺縁の障害部位に対応した部位に視野障害がみられ、角膜や水晶体、脳に視野異常を引き起こす病気がないことで確定します。それらの判定のため、細隙灯検査、眼底写真、眼底OCT検査、視野検査、時に脳MRI検査が必要となります。
診断後に、病型の判定、病期の判定、更に視野障害の進行の程度を判断します。病型の判定には隅角検査が必須となります。点眼麻酔後に、隅角鏡検査、前眼部OCTによる隅角評価を行い、更に超音波を使った検査(UBM検査)により隅角が開放か、閉塞かを診断します。病期の判定は視野検査で行います。通常、ハンフリー視野検査により、前視野緑内障・早期・中期・後期緑内障のどの病期にあたるかを判定します。病期によって設定する目標眼圧が変わってきます。
治療は、視野障害の進行のスピードを遅らせ、生涯にわたり日常生活に支障がないよう視野を維持することを目的に行われます。残念ながら、老化によっても網膜神経節細胞は減少していくため、進行しないようにできるだけ早期から積極的に治療を行っていく必要があります。
まず始めは点眼薬による眼圧下降治療が行われます。眼圧下降の効果は、房水産生の抑制と房水流出の促進によって得られます。数回、無治療時の眼圧を測定し、基準となる眼圧がわかったら、病期を考慮して目標眼圧を設定します。通常1種類から点眼治療を開始し、目標眼圧を目指して点眼薬の変更・追加を行います。目標眼圧までの下降が達成されたら、4ヶ月ごとに視野検査による視野障害の進行判定を行い、進行がみられる場合には、更に点眼薬追加やレーザー治療を検討します。最近、点眼薬は眼圧作用機序の異なる2剤が混ざった配合薬が登場し利便性が向上しています。点眼治療を複数行っても、眼圧が高い場合には内服薬や点滴による治療を行うこともあります。しかし、副作用などを考慮すると、内服薬や点滴による治療を長期に渡って行うのは難しいと考えられます。それでも視野障害の進行が阻止できない場合に手術となります。手術の方法としては、線維柱帯切開術や線維柱帯切除術(濾過手術)などがあります。